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Channel: 妄想泥棒のブログ(銀英伝・ハガレン二次創作小説とマンガ・読書・間宮祥太朗ドラマ感想)
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ハガレン二次創作 ■焔の錬金術師86 (ロイ×アイ)<完結>

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「クビって・・・。」
「何でそんな事になっちゃったんスか!」
自分たちのボスが大出世という手土産をもって意気揚々と帰還するとばかり思い込んでいた部下たちは、驚きの余り叫ぶような声をあげた。
だが、当の本人がえらく飄々とした様子なので、すぐに口を閉ざすしかない。
「という訳だ、諸君。君らの期待を裏切って済まない。」
だが、とすぐに言葉を続けたマスタングである。
「私があきらめの悪い人間だと皆知っているよな?なあに目標がちょっと変わっただけだ。」
「・・・と、いいますと?」
ファルマンが不審気な顔つきで尋ねるのに、威勢よく答えた。
「大総統になるのはやめだ。目指すは、大統領だ!」

まじっすか・・・。皆が半ばボーゼンと脱力状態にある中で、黒い目の男はいたって本気である。
「考えてもみろ。軍における私は、ただの秀才で元英雄というだけの存在にすぎん。下手に顔がいいもんだから、いまいち強面の迫力にかける。だが、民主制を率いる政治家となったら、国民的な知名度と人気を誇り、知的でイケメンしかも元英雄などという完璧な人材は私以外に他に誰もおらんと思わんかね?思うだろ?」
(相変わらず、すごい自信ですね・・・)
全員がこっそり呟いたあきれ声になど、男は全く頓着などしなかった。
「と、いう訳で、とっとと引継ぎを始めるぞ。イシュヴァールの目処もたったことだし、丁度いいタイミングだ。」
未練の欠片も無い台詞で、てきぱきと身支度を始めたマスタングに、一同はため息をつきつつぼやく。
「・・・要領の悪い上官を持つと、苦労させられますよ、全く。」
「ほんとほんと。いつも勝手な上に人使いが荒いったらありゃしねえ。」
しかし、口ではそういいつつも、皆もまた揃って身支度を始めたのだった。無論、この男について行くために。
「・・・貴方についていくと一生退屈しなくて済みそうですからね。」
ブレダがぼそっと発した台詞に、ただ短く、同感、とだけ答えた仲間たちであった。

*****

しゅーっという蒸気音と共に、景気良く汽笛の音を響かせて列車は再び走り始めた。
終列車から降り立ったのは、わずか二人。
この鄙びた田舎駅ではそんな事は当たり前であったから、半ば居眠りしていた改札の係員は、この日最後の客であろう男女二人連れを迎えた。
「お気をつけてー」
だるそうに声をかけると、妙に姿勢のいい男がびっと敬礼で応じてくれたのが見えた。次いで、一緒の女の方も同様のポーズを決めたので、駅員は慌てて背筋を伸ばして応じた。
(・・・誰だ、ありゃ?)
つい反射的に自分も敬礼してしまった後で、こっそり二人の背中を見送った。どっかで見たことあるような。
(軍人ぽいけど、軍服着てないし。女の方もえらく別嬪さんだけど、目つきがただモンじゃねーし)
少しだけ考えていた駅員だったが、だがすぐに、俺にゃ関係ねえと首をふる。そして、今日一日の仕事が終わったとばかりに大きく伸びをしてふわぁと欠伸をした。

夕暮れが近づく中、懐かしい小道を二人は黙って歩いた。
舗装もされていない細道。歩くたびに小石を踏みしめる音がじゃりじゃりと鳴る、そんな田舎道。
林の向こうから、鳥たちのさえずりが聞こえる。夕支度のために木枝の巣へ舞い戻ってきているのだろう。
ふいに目の前の男が立ち止まり、振り向いた。
そして、何事だろうと首をかしげているリザに向かって、悪戯っぽく微笑むと、手を差し出す。
リザは、ちょっとだけ躊躇った様子を見せたが、すぐに小さく頷くと、持っていた大きな鞄を男に預けた。
男は満足してそれを預かり、自分の分と合わせてよいしょと握り締めぶらさげる。そして今度は、もう片方の手をゆっくりと差し出した。
今度こそリザは顔を赤らめて、なんだか困った様な顔つきとなったが、男が妙に真面目な顔つきで誘っているのについ根負けした。

そっと繋いだ手は大きくて温かかった。リザは自分らしくもなく胸が高鳴るのを感じながらも、考えずにはいられない。
私の手。ずっと引金を引くために戦ってきた私の手。こんなごつごつした荒れた手を、この人は嫌じゃないのかしら・・・。
「思い出してしまうよ。買い物帰りに、この道をこうして君と手を繋いで一緒に帰った事を。」
マスタングは、リザの気持ちを知ってか知らずか、暢気な声で語りかけた。
「あの頃の君は、まだ小さくて可愛かったなー。」
・・・もう小さくも可愛くもなくなっちゃって済みませんね。
「だけど、当時から、辛辣で頑固だったよ、君は。」
・・・どうせ私は頑固でいつもお説教ばかりですよ。

ひたすら無口なリザが、秘かにむっとしている事に果たして気づいているのかどうか。
だが、男はふいに口を噤み、しばしの沈黙の後言った。
「これからの、君の位置はここだ。もう後ろじゃない。ここ、僕の隣。」
マスタングの言わんとすることを理解したリザであったが、咄嗟に何も返答ができない。
ずっとこの男の背中を見守ってきた。いつしかそれが当たり前のように思っていた。けれど、時の流れが二人をそのままにしておいてはくれない。
懐かしい家へと向かい今並んで歩んでいるこの道が、二人の人生にとって家路にあたるのだという事にようやく気づいたリザである。無論、小さかったあの頃に戻れるわけではないけれど・・・。
それに、これは旅の終着駅ではない。ほんのひと時だけ、羽を休めるために立ち寄った故郷。そして明日から、また二人は新しい旅に出る。国じゅうを、多分、外国をだってとびまわることになるのだろう。
(けれど、マスタングさん、知ってますか?)
リザは心の中だけでそっと呟く。この人は、どうやら少し勘違いをしている。
私は軍人となり部下となったから貴方の後ろを歩くことになったのではないのです。ずっとずっと昔、そう最初から、私は貴方の背中を目で追いかけていました。
幼い自分の憧憬を思い出し、少し切ない気持ちで男の横顔を見上げた。

到着した屋敷は、相変わらず幽霊屋敷にしか見えなくて、二人は思わず顔を見合わせて苦笑しあった。
すっかり固くなった鍵を苦労して回し、ドアノブをよいしょとひっぱる。ぎぃと情けない音がして重い扉はようやく開いた。
室内は埃だらけではあったが、無駄なく片付けられていたために、二人で手分けして簡単な拭き掃除をするだけで、何とか凌げそうであった。
ちらり、とマスタングは甲斐甲斐しく働くリザのエプロン姿を盗み見た。・・・まいったな。すごく可愛い。
ちらり、とリザもまたバケツを洗うマスタングの姿を盗み見た。・・・腕まくりしてる。どうしよう、らしくなくて、なんだかどきどきする。
ようやく一通り掃除が終わった頃、ふと窓の外を見てみれば、もうすっかり暗くなっていた。夕暮れから始めたのだから当たり前である。
買ってきた食材で簡単な夕食を作ると、マスタングは嬉しそうに頬張った。そんな男の姿を眺めて、リザもまたほっこりと胸が温かくなる。
これは、二人にようやく訪れた静かな休息。どんな豪華なレストランやホテルで過ごすよりも、ずっと素敵な時間だとリザは感じた。
だがしかし、古いソファへと腰掛けて、すっかりくつろごうとしていたリザの手を、マスタングの手がひっぱった。
「おいこら。くつろぐのはまだ早いぞ。大事な事を忘れてるだろう?」
そうして、困惑気味のリザを半ば急き立てるようにして、ふたたびコートを羽織らせた。

マスタングの手に引かれて、着いた先は亡き父の墓標の前であった。
途中で手に入れた小さな花を一緒にたむけて、二人は静かに佇んだ。
「何も、真っ暗な夜に墓参りしなくても・・・。」
リザが少々非難を込めてマスタングに言いかけた時であった。マスタングはおもむろに墓に向かい語り始めた。
「師匠、不肖の弟子だった私ですが、ようやくご報告にあがる勇気がもてる日が来ました。」
マスタングのいつにない真剣な声に、なんだか気圧されてリザは思わず口を噤んだ。
「私が未熟であったが故に、一度ならず道を誤りました。そのまま、私は人でないものへと堕ちるところでした。」
リザは一緒になって父の墓前でうなだれて耳を傾けている。
「ですが、お嬢さんが私に教えてくれました。人でありたいと願う気持ち、人であろうとする強い意志、それこそが、我らが人間であることを決める、と。」
マスタングは少しだけリザの方を振り向いてから、静かに言葉を続けた。
「人間兵器としての焔の錬金術師は死にました。私は生まれ変わった気持ちで、人間であることに誇りをもち、新しい人生を歩もうと思います。」

リザは、自分こそがこの男によって生まれ変わり救われたのだとずっと感じていた。だから、己もまたこの男を救ったという男の言葉に驚き、思いがけない喜びと誇りで胸がいっぱいになる。
「贖罪のために残りの人生を生きるつもりはありません。自らも幸せになろうとして初めて、人を導く資格も得るのだと学びました。」
だから、とマスタングの声に力がこもった。
「お嬢さんを、私にください。二人で幸せになるために歩んでいきます。」
静かな沈黙がおりた。しばらくたってから、ようやく立ち上がったマスタングである。
そんな男に、リザは何と声をかけるべきか良く分からず、仕方なく呟く。
「・・・なにを、いまさらな事を・・・。」
そう。何を今更。私はとっくに貴方のものなのに。

だが、マスタングは大真面目な顔をしたままリザに顔を向けた。
「ひとつ、言っておくことがある。」
「・・・?なんでしょう?」
「私たちの子供の名前は、私がつける。君に名前を考えさせるとろくなことにならない。」
「・・・」
すっかり意表をつかれたリザであった。リザは、正直なんだって男がそんな事を言い出だしたのかさっぱり分からない。ブラックハヤテ号ってそんなにヘンでしたか?
しかし、問題はそんな事よりも、だ。
(私は子供を産めないかもしれないのに・・・)
年齢とかそういう問題ではなく。そう、だって私は普通じゃないから。
だが、ロイはそんなリザの困惑した表情など全てお見通しのように、やや意地悪そうに笑った。
「君は、まだそんなことを心配しているのか。らしくないな。」
そして、えへんと胸をはって続けた。
「私の言葉を疑うのかね。今や、私は、君よりも君の身体に詳しいと自信を持っているぞ。」
得意満面の男に、リザは思わず顔を赤らめる。
「父の墓の前で、言っていいことと悪いことが・・・」
「な、なにをする。落ち着け。銃をしまいたまえ。ていうか、なんで君銃持ってるの?」

やがて、墓前を辞した二人は帰路についた。
街灯もない田舎道だけれども、月明かりだけで十分だった。星座の静かな輝きも美しい。
うっそうと生い茂った林道をくぐり抜けると、ふいにぽかりとした空間に出る。そこから二人の帰りを待っている家が見えた。
その時、繋いでいた手にふいに力がこもったと思ったら、男がぴたりと歩みを止めて振り向いた。
何事だろうと見上げた女の手に、突如ひやりと冷たい物が手渡された。
「・・・どういう事ですか?」
リザが困惑した声で尋ねたのも無理はなかった。それは一丁の拳銃であった。最新型6連射式リボルバー。
「いいから構えたまえ。」
まるで当然のように上官の口調で命じるマスタングに、自分でもどうかと思いつつも、黙って従うリザである。
促されて、自分で所持していた愛用の銃も手にし、二丁を両手に握り締める格好になった。
いったい何を撃てと命じられるというのだろう・・・。
頭の中では疑問が渦巻いていたが、元軍人の性で、握り締めた感触と両手の重さに応えるように無意識に両足を軽く開き踏ん張る。そう、いつでも発射できるように。

いつの間にか、ポケットから取り出した白い手袋を嵌めた男の指が、つ、と上がり、天空を指した。
「月だ。月に向かって撃て。」
さすがのリザも、予想外の指令に驚きを隠せない。月ですって?
思わず、頭上高く、ほぼ南中位置にあるそれを、振り仰ぐようにして見上げる。
だが、有無を言わさぬ男の瞳になぜか逆らえないものを感じ、リザは、困惑しながらも、ゆっくりと腕を天空に向けて高く構えた。
そして。
「撃て!」
男が発した大声に、ほとんど反射的に引金を引いた。ズガンという轟くような銃声が静かな夜を貫く。

その時である。男もまた腕を伸ばし高く掲げた。そしてパチンと鳴らされた指先から火花の光が飛び散ると、それがまるで放たれた火龍のように天空を目指してかけ昇る。
光の速さで繰り出されたそれが、驚くべきことに、高い上空で銃弾をとらえたことが分かった。
なぜなら、その瞬間に、ぱあっと夜空に光の花が咲いたから。
ほとんど呆然としかかったリザに、マスタングの激がとぶ。
「撃て。全て撃つんだ。撃ち尽くせ!」
もう、その後はほとんど夢中だった。まず愛機の弾を撃ち尽くすと、すぐに手渡された銃で続ける連射。
リボルバーには、特殊な弾薬か金属でも仕込まれていたのであろうか。夜空に咲く花の色が、色とりどりに変わっていく。
真っ赤な焔の色の花。紫がかった青い花。エメラルド色の緑の花。輝いた次の瞬間にはぱっと散るように広がるたくさんの花々・・・。

やがて、全ての弾を撃ち尽くし、夜の静寂が戻ってきた。闇夜に大きく開いた大輪の花々の残滓が、光のかけらのように舞い降りてきて、星くずみたいに見えた。
消え行く光の名残が瞳の中でにじむ様に霞み、リザは自分の頬に静かに伝うものに気づき驚いた。思わずこれは星のしずくなのだと心で言い訳する。

「君は言ったな、小さな花束など受け取らないと。」
いつか再び見てみたいと願った宝石の様な雫を、指でそっと拭ってやると、男は満足そうな顔つきで呟いた。
思わずぎゅっと目を瞑ったリザの瞳から一際大粒の涙がほろりと零れ落ちる。
そう、その言葉には確かに覚えがあった。あれは花束をもらってくれないかと男が電話をくれた翌日のこと。
可愛げのない自分は答えたものだ。
(女なら、たくさんの花束を抱えてあちこち配って歩く男性よりも、たった一つの大きな花束を贈ってくれる人を望むものです・・・。)

リザの潤んだ視線に応えるように、マスタングはじっととび色の瞳を見つめ返した。
「錬成のエネルギー源が完全に消えて無くなるその前に、君に渡したかった花束だ。受け取ってくれるね?」
そして、と静かに言葉を続けたマスタングであった。
「私が行う錬金術はこれきりだ。これが焔の錬金術師の最後の錬成だよ。」
静かな声でぽつりと言うと、男はポケットからきらりと光る一組の指輪を取り出した。
そっとリザの手をとり、指に嵌める。残る片方も、当然の様に自分の指にも続けて嵌めさせた。
「このリングの持つ意味が、単に二人の未来への約束だけではないという事を、君なら分かってくれるはずだ。」
まるで何かの神聖な儀式を行うように、マスタングの顔つきは真剣そのものであった。
「鷹の目もまた、焔の錬金術師と一緒に今宵死んだ。これは、焔を生む私の指と、引金を引く君の指、双方への封印だ。」

二人だけの儀式を終えたマスタングとリザは、ずっと長いこと互いに見詰め合っていた。
やがて、いつもの不敵な笑いをにやりと浮かべ、手を差し伸べてきた男の手を、リザもまたおずおずと手を伸ばし、ぎゅっと握った。
そして手を繋いだまま、真っ直ぐに前に向かって二人で歩き始める。
「あの、私からも一言よろしいでしょうか?」
リザがようやく遠慮がちに発した台詞に、マスタングは鷹揚に頷く。
「勿論だとも。この私の一世一代の求婚に対し、ぜひとも君の言葉を聞かせて欲しいからな。」
マスタングはえへんと胸を張った。きっと浮気は許さないとか念を押されるのだろうが、神誓って浮気なんかするもんか。・・・第一怖いし。

だが、リザが発した言葉はマスタングの予想を完全に超えていた。
「私のしつけは厳しいですよ?」
「・・・君にとって私は犬かね?・・・」
急に不安そうな表情を浮かべた男の顔を、いたずらっぽい顔つきで女が見上げる。
視線が合い、思わず笑い出した二人の声が響き渡った。二人の新しい門出を、ただ遠く月だけが静かに眺めていた。

<完結>

*****

あてにならない地図 焼いてしまえば良いさ
埋もれた真実 この手でつかみ取ろう

数え切れない傷 抱え込んでいても
ちょっとやそっとじゃ 魂までは奪わせない

READY STEADY GO / L'Arc en Ciel


救いのない魂は 流されて消えゆく
消えてゆく瞬間に わずか光る

君の手で鍵をかけて ためらいなどないだろ
間違っても 二度と開くことのないように
さあ錠の落ちる音で終わらせて

メリッサ / ポルノグラフィティ


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