蝉しぐれ(時代小説)藤沢周平
このチョイスを見た読者が、一斉につっこむ声が聞こえてきそう→「おい、お前実はオッサンやろ!!」
否定しません。少女マンガ脳の中身おやじなアラフォー主婦とか、我ながら奇怪極まりない人間だと思います・・・。
実は、子供の頃にかなり時代小説読んでいます。司馬遼太郎、山本周五郎etc・・・・無論全て父親の本棚にあったもの。
そのため、大人になった今でも、「宮部みゆきなら時代ものが一番好き」という程度には好きなジャンルであったりします。
しかし、藤沢周平は初読でありました。世間では、なんかすごい大御所扱いされている雰囲気ですが、実はこの方そんなに大昔からいた方ではありません。代表作の一つであろうこの作品も、恐らく私が高校生くらいの頃に出されたのでは。
本格SFやマンガ同様、好きながらもしばらくご無沙汰だった時代ものを久しぶりに手にとってみたくなったんです。
というのも、女房である私がヲタ小説書きという謎の趣味にハマってしまったこの数年というもの、相手にしてもらえず寂しくなった夫wwwが、時代小説にどはまりし、司馬・池波あたりと一緒に本棚にずらり藤沢周平を揃えてしまったのです。
それでこそ我が夫ぞ。いいこいいこ。
感想を一言で申し上げますと、「心洗われる気分でござった」
やはり日本人はこうでなくてはなりませんよ。登場人物たちの清廉なこと。情景描写も素晴らしいです。さすが映画化されただけのことはありますね。私は青春小説の雰囲気を楽しみましたが、剣客ものとしても悲恋ものとしても楽しめる、結構盛りだくさんな物語です。
強いて言えば、初恋の人に比べて女房の扱いがちと冷たくて可哀想な気がしますが、これはおやじによるおやじのための物語ゆえ、仕方ありません。むしろそこを現代の感覚で気にしてしまったら、時代小説など読めん。真の男の純情とは、手に入れることのできなかった女にこそ向けられるものだという本音丸出しで、タイヘン正直でよいではありませんか笑。
しかし、少々毒も吐かせていただきましょう。
夫に付き合って何度も本屋やブックオフを梯子した時に、時代小説の棚がえらい幅きかせているのに気づきました。ものすごい点数の新刊が出版されている様子。作家も、大御所ばかりとは限らず、あまり馴染みのない新人らしき名前がわんさか。
この小説を読んでみて、その理由を悟りました。「ああ、今、時代小説っておじさんたちのラノベになってんだな」って。
子供の頃に読んだ時には、全然気づかなかった事なのですが、歴史小説と時代小説って明確に違うものなのですね。無論、時代小説のほうが娯楽性を追求するスタンスであり、言葉は悪いかもしれませんが要はファンタジーであります。
まあ当然ですよね。日本の高度成長期を支えたおじ様たちが、次々と引退し、金と時間をもてあましてます。このご時勢、下手すると、引退前に既に会社内でご隠居状態という人だって少なくない。平日の図書館とかコーヒー屋行くと、朝から夕方まで、そういう風貌のおじ様方で溢れています。
男子たるもの余り軽薄なイメージのものには抵抗があるが、かといって複雑でスピーディーなものには最早感性がついていけない。その結果の時代小説ブームなんじゃないですかねえ。予定調和も心地よく、実は余り頭使わないでも済む読書。
でもね、よっく観察してみると、ブームはリタイアおじ様だけには留まっていないのですよね。意識して地下鉄とか周囲とかにアンテナ張り巡らしてみましたが、フツーに20~30代の、しかも女性が、池波正ちゃんとか愛読してますね。
この現象の理由もまた、私にはなんとなく想像がついているのです。
最近勢いのあるジャンルはみんなラノベとコミックばっかりで、萌え絵表紙のアレを手にとるのはこっ恥ずかしいお年頃。かと言って、ワケのわからぬ暗さと気持ち悪さへ向かってしまった最近の純文学を読むには疲れすぎちゃってる。
そう、おじさんと全く同じ理由なんですよ。私自身がそういう気分だから、よく分かるんです・・・。欲しいのは静かなる癒やし・・・。
こういう世相では、何が純文学だ何がラノベだジュブナイルだとか、カテゴライズやランクづけに意味ないと思いません?本なんて、読まれなきゃほとんど意味ないんです。売れてるものはやはり正義なんですよ。今どきのものが嫌でも、我々には過去の膨大なコンテンツからの選択権があるんですから、別に批判したり嘆く必要もないでしょう。
ただ唯一心配なのは、街の本屋さんの行く末ですね・・・。限られた棚を売れるものが占有していくのは商売である以上仕方がありませんが、あれじゃあ書籍が全部雑誌化しちゃったのと同じです。物凄いスピードで移ろい消費されていく流行りものを、ただ追いまくられるようにくるくると回しているだけ・・・。コンテンツがすごく軽~くなっちゃってるから、紙の本にする意味はどんどん薄れていく一方でしょうね。いずれまた読み返すだろなと思える作品ほとんどないもの。
あ~あ、私、本屋さん大好きだから、哀しい未来を想像したくないんですけど。
とりあえず、我が家には、あと10年は困らない程度の歴史小説と時代小説がストックされてしまいましたでござるよ笑