第十六話 「大きな国」
前半戦クライマックスに向けて、盛り上がって参りました!
初回からずっと見ておりますが、今回は一番満足度が高かった。なぜなら、主役だけでなく、周囲の人物像とその思いもしっかりと描写され、戦というものが正義と正義のぶつかり合いでしかない真理を見事に描いていたからです。
分かりやすい悪を描き、それと対決する単純な構図は痛快ではありますが、そこに深みを感じる事はなく、まして大河ではやって欲しくない。
その時代その場所で実際に必死で生きたであろう人物達を、公平に描いてこその歴史絵巻だと思うのです。
①高政が初めて輝いた
父道三との関係が拗れに拗れ、これまで感情的に反抗する場面ばかりが多かったため、なぜこの人物が道三の後を継いだのか、納得出来ない視聴者もいたのでは?
高政は、これまで国衆(明智や稲葉ら)のご機嫌をとらねば出兵すら出来なかった国の有り様を変えようとしています。
「現状は(領地は国衆のものなので)各領地の実際の収穫すら定かでない」
「領地変えを命じる。代わりにもっと広い領地になるから我慢して従え」
要するに、検地。これが領国としての安定的集権の基礎であり、強国への必要条件であった事は歴史が証明しています。
更には、国衆達の反抗を押さえるため、自分が道三の息子でなく、土岐源氏の血を引くと偽ります。
醜聞めいた噂でしか無かった事を逆手に取り、正統な支配者であると最大限に利用しようと言うのです。
これは正義ではないかもしれませんが、国を強くするために有効な賢い戦略である事は間違いない。
つまり高政は、妾腹でも道三に後継と指名されただけの理由はちゃんとあり、はっきりと有能だったのではないでしょうか?
(少なくとも、暗殺された弟達よりは有能であるという描き方をされている)
②高政と帰蝶の対立が必然的であった理由
一方の帰蝶もまた、単に感情だけで弟達をけしかけた訳ではなかった事が分かります。
自分が嫁いだのは、織田との同盟のためであり、それが美濃を強国へ導かんとする父道三の戦略に欠かせない布石であると理解していた。
それなのに後を継いだ高政は、織田との同盟を軽視し、むしろ敵国今川と手を結ぼうと戦略変更しようとしている。
弟を殺された恨み以上に、帰蝶にとっては自分の立場すら危くなる裏切りなのです。
父に味方し救う為に用意したらしき越前避難ルートが、この後意味を持ってくるという流れなんでしょう。今後も帰蝶さまの暗躍は間違いない無さそうでワクワクします。
③老いた道三の思い
高政が無惨に弟を殺した事が引き金だったのは間違いない一方で
「わしは跡を継がせる者を間違った」
そこまで道三を決意させたのが、むしろ土岐の血統を騙った事の方であったというのは、実に人間くさい描写です。
暗殺は自分だってやって来てますからw、それを非難する筋合いでもない。
しかし道三とその父は、油売りの子という出自を揶揄されながらも、泥臭く必死でのし上がって来た。武士達の形式ばった論よりも、商人あがりらしい損得勘定で国を文字通り「経営」して来たのです。
その強い自負故に、まるで己の人生を否定されたかの様に感じてしまったのかもしれません。
そんな劇的な人生を送った男の生涯が、息子との対決で終わるというドラマは、色んな解釈が可能で見応えしかありません。
司馬史観でいう所の、「道三の野望は義理の息子信長へと引き継がれた」も良きですし
「父を否定した息子に、敢えて己を乗り越えさせてやり、自らは散って息子に花を持たせる」という解釈だって可能です。
どちらかと云えば、司馬史観寄りの描写だった本話の道三を見て、私は「国盗り物語」を再読せねばっ!と心に誓いました。
(実は子供の頃に読んだっきりなので、ほぼ忘れてしまっていますw。間宮氏が左馬助役として発表された時も、「知らん武将じゃが頑張れ」とか思ってましたが、良く考えたらバッチリ出てたはずじゃん!国盗り物語には!)
④光安叔父上の哀愁
道三と高政との対立に巻き込まれ、領地を安堵するため足掻く光安叔父。
道化の様に必死に踊って見せながら、光秀に投げてよこす視線は哀愁そのもの。
本ドラマでの光安叔父上は、格別なキレ者ではない代わりに、明智領を亡き兄から預かっただけで、いずれ光秀に戻す使命を全うしようとしているだけの野心無き善良な男として描かれていますが、西村さんは素晴らしく適役として演じてらっしゃいます👏
下克上と暗殺当たり前の乱世にあって、しかもあの苛烈な道三の下でこの様な男が生き残るには、さぞかし気苦労が絶えなかったろうと想像してしまいます泣
そんな男が最後に選んだ道は、あくまで古き良き領主としての価値観と美意識の典型であったのかもしれません。
即ち、半農で土着の豪族として先祖代々引き継いできた領地こそが命であり、これと切り離されるなど不名誉で死にも等しい。例えもっと広い土地を約されても、一から農民たちとの絆を築いて行く事の難しさも知っている。
明智領を召し上げると決めた事で、光安は高政に従う事はできなくなりました。
だがしかし、息子左馬助は置いていけよ叔父上〜ww
赤い袴はいてた男の子左馬助くんは、おじさんに連れられて、道三さまのもとへ行っちゃった〜
我らが左馬助の運命どうなる?
⑤理想の妻煕子の描かれ方が素敵
光秀との結婚に至るエピソードが、余りにあっさりだったのが今でも残念〜
左馬助くんと同様、これからもっと活躍する筈だし、登場場面を楽しみにしているキャラの一人です。
今回は、光秀が出陣の決意に至るまでを静かに見守り、決めた事には黙ってついて行く決意を見せてくれた煕子。
ガンガン政局に絡んで来る帰蝶と好対照な存在であり、理想の武将の妻として輝きを増してきました。
穏やかで慎ましやかな普段から一転、夫の覚悟を確かめた瞬間の緊張感ある表情が、見事な演技でした。
個人的には木村文乃さんは、気の強い役がお似合いだと思うので、これからもっと芯の強さを滲ませてくれると期待しています。
⑥光秀の敵はいずれか?
道三と高政との戦が避けられないものとなりました。光秀は、熟考の上、遂に決断します。
「叔父上を追い、道三さまのもとに!」
道三側に勝ち目は無いと分かっていた光秀。なぜこの決断をしたのでしょうか?
色々な解釈や説があると思いますが、私は以下の様に感じました。
即ち、光秀は利より義や道の方を取る人間であったのだろう、と。
この結果、彼は実力を発揮して出世街道を爆進し始めても、最後までどこか要領の悪い生き方をする羽目になります。
本質的には光安叔父と同じ。地方小領主であった血筋がその保守的価値観を形成した気がします。だから、信長の元で領地をガンガン変えられても平気なライバル秀吉とは出自もマインドも全く真逆。
今回の決断が、物語のラストシーンでリフレインされるのか?色々想像してしまいます。