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読書感想<秘密/東野圭吾>

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”流行作家”という言葉があります。
本来は、今をときめく人という意味合いのはずなのに、少し揶揄を含んだ使われ方が多いように思います。きっとそこには、時代の波に乗った事への嫉妬と、でもどうせすぐに忘れ去られてしまう程度のものという軽侮が含まれているでしょう。

東野圭吾さんの事を、流行作家ですかと問われれば、そうだと頷く人は多いと思う。事実として、売れている。しかも多作。
だから私も、この作家の事をそう捉えていました。
嫌いじゃないんです。むしろその逆で、気に入ったから続けてそこそこの冊数を読みました。
「容疑者Xの献身」とそのシリーズ。毒笑小説などの短編集、あとは軽いミステリタッチのものを幾つか。

Xは、さすがに面白いとは思いましたけれど、物語の舞台が今私の暮らしているエリアであることに親近感を覚えたという点が強く、そこまでの名作とは思えませんでした。
むしろ、これまでの一番のお気に入りは「あの頃僕らはアホでした」というエッセイで、タイトル通りの実に楽しい青春回想録。爆笑しつつも、この男は実に頭のいい男だぞと確信できた作品でもあります。

この作家は売ることを狙って物凄く計算をして書いています。プロなんだから当たり前だろうと言われるでしょうが、実はそれって、そう当たり前でもないんじゃないですかね。文化とか芸術とかなにか高尚なところを目指してる偉人変人たくさんいますし、そこまでいかなくても、何と戦ってるんだか良くわからん作品多いです。また、特に女性作家に多いのは「でもあたしは好きな事書かせてもらいますから」ってタイプだと思うんですよね。それに、そもそも狙ったとしてもそう上手く書けるもんじゃない。だから安定してそういう作品を生み出し続けることに、この作家ならではの個性も凄さもあるのです。

気まぐれに手にとっただけだった笑いを狙って書かれた短編集の数々に、ものすごい苦闘と努力、そして実験の跡をみつけてしまったために、私はこの方に最大限のリスペクトを捧げざるを得なくなりました。自分でもブログでお笑いエッセイの真似事や素人小説を書いてみて笑わせるものを書くのが一番難しいことを経験的に知っているためです。正直にいうと、勢いでなんか面白い事を書くことなら、結構誰でもできる。でもそれは偶然というやつでしかなくて、難しいのは、それを狙った上で、かつ継続的に笑いを産み出し続けることなのです。そこを目指して挑戦しようという姿勢、かっこいいじゃありませんか。

本物のプロなんですね、と認めていたにも関わらず、しばらく読書自体から遠ざかっていたこともあり、積ん読山に何冊も放置した状態で、その後他の作品を読む機会はありませんでした。
だから、今回その山の中から「秘密」を手にとったのも、本当にただの気まぐれでした。読み始めてすぐに、ダンナが「お?」という顔して寄ってきて言いました。「それ、多分東野圭吾の最高傑作だから」

うちのダンナは、私とはいろいろと性格が真逆でして、ある作家を気に入るとひたすらその作家ばかりを読み続ける人です。おかげ様で、うちにはコンプリートされてるおっさん作家の本が山ほどございます。たいてい、きっかけは雑食派の私が作るのですが、それをこつこつと丁寧に積み上げていくのは私には決して真似ができず、持久走型の夫をとても尊敬しております。
そんなダンナが東野作品をとても気に入り揃えてしまったのは、偶然ではないでしょう。東野圭吾という作家は、すごく頭のいい人ではありますが、それ以上に努力の人です。うちのダンナみたいなタイプの男は特に、本能的にそこに共感する何かを嗅ぎ取っているように思えるのですね。

読み始めて、すぐに泣きました笑。くそう、夫の言った通りだぜ、こいつはやばいぜ、でございます。気づけば、最初はニヤニヤして傍で眺めていたはずの夫が、席を外していなくなってました。私がいきなり泣くとちゃんと知っていたんですねwww。
そして読み進め、やがて納得したのです。ああ、これは東野圭吾のアルジャーノンなんだな、と。
実際、アルジャーノン型プロットの実験的短編を読んだ事がありましたから、かなり以前から、アイディアを練り上げて作品化する事を目指していたんだと思います。まんまと狙った通りに泣かされてる女、ここに約一名。

ただし、さすがというべきか、単純な焼き直しなどでは決してなく、複雑に伏線巡らし回収し、テーマ性に於いても完全に別の、そして完成された物語になっています。特に、視点を夫サイドに絞り込んだ事が大きい。
極めて普通の男の心情が丁寧にリアルに描かれていて、そこが何とも言えない哀しさを生んでいます。これ読んで、ぜったいうちのダンナは私と娘に優しくしようと誓ったに違いありません笑。今度ダンナとケンカしそうになったら、さりげなくこれをテーブルに出しておくことにするぞ今決めた。

まあ、無理やり何かひとつ違和感をあげるとすれば、女房側の気持ちがやや美化されすぎかもしれないです。上手いのは上手い。微妙な曖昧さに逃げたがる女のずるさや、専業主婦であればそう感じたかもしれないであろう心情などリアルすぎるほど。
しかし、もし私がこのヒロインだったら、と想像するに、私はここまで献身的にはできないと感じます。ただシンプルに自分のためだけに再びの人生を送ろうと早々に決意すると思う。
それを言ったら、ダンナは苦笑いして一言。「うん、知ってる。お前はそういう女だ。」
・・・なんか、男の夢を壊しちゃったみたい。ごめんねダンナちゃん・・。

この作品が、普通の男が泣ける本として、20年後も読み継がれているといいなと思います。消えてなくなって欲しくない作品です。不思議で哀しい恋物語。相手は女房。こういう作品読んでる純情な日本の男も、私は結構好きですよ。

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